怖がり・新しいことに挑戦しない子 | 一歩踏み出す力を支えるために読んでみたい絵本

新しいお友達に挨拶できない。

習い事が始まる前から行きたくないとないちゃう。

保育園や幼稚園で端っこで固まっている。

こういった怖がり、人見知りが強い子どもの悩みは、決して珍しいものではありません。発達科学によれば、「抑制気質」の特性からくるとされています。

「怖がり」の正体

発達科学メモ

ハーバード大学の発達心理学者ジェローム・ケイガンの長期縦断研究(Kagan, 1994)によると、子どもの一定数(先行研究の知見によると、概ね15-20%とされています)が生まれつき「抑制型気質(behavioral inhibition)」を持つとされています。

「抑制型気質」を持つ子どもは、新しい状況・人・物に対して、慎重に距離を置く傾向が指摘されています。これは、扁桃体(恐怖反応を司る部位)の感受性が高く、新しい刺激をより強く処理するため、「怖がる」というのではなく、「リスクを慎重に評価している」のだと考えられています。

「抑制型気質」の子どもに「勇気を出して」とアプローチすることは逆効果になることが指摘されています。ケイガンらの研究で示されている有効なアプローチは、安全基地(親との安定したアタッチメント)を強化すること、安心感があることで、有効な一歩が踏み出せるとされています。

おすすめの絵本

ちいさなあなたへ(アリスン・マギー、ピーター・レイノルズ 作/主婦の友社/2008年)

NYタイムズベストセラーにもなった話題の絵本です。あなたはどこへでも行ける、というメッセージが大人が読んでも感動する絵本です。

発達科学メモ

怖がりの子どもに最も必要なのは、「自分は安全だ、守られている」という安全基地を確信できることです。ボウルビィ(Bowlby, 1969)のアタッチメント理論とエインズワース(Ainsworth, 1978)の研究では、安全基地が強固なほど子どもの探索活動が活発になることが示されています。

この絵本を通じて「お父さん、お母さんはいつでもここにいるよ」というメッセージを伝えることができると思います。例えば、現実世界で怖がりそうな場面の前日に、「明日はちょっと怖いけど、この絵本みたいにちゃんと帰って来れるよ」という話に繋げてあげられます。

ラチとらいおん(マレーク・ベロニカ 作/とくながやすもと 訳/福音館書店/1965年)

こわがりの男の子、ラチがライオンに鍛えられてどんどん強くなっていくお話です。一日一日強くなっていく過程は、抑制型気質の子どもに「怖いことは少しづつ慣れていくもの」という体験的な理解を与えてくれます。

発達科学メモ

「できるかもしれない」という感覚、自己効力感は、一度の大きな成功より、小さな成功体験の積み重ねによって形成されるとされています。バンデューラ(Bandura, 1977)が示した「段階的マスタリー(enactive mastery)」の概念ですが、この絵本は、概念そのものがストーリーになっていると言えます。

「ラチ、きのうより強くなったね」とラチに話しかけるように読んであげてください。読み終わったら「○○ちゃんも、苦手なこと少しずつやってみようか」と日常の小さな一歩と結びつけてみましょう。

ねずみのいもほり(山下明生 作・いわむらかずお 絵/ひさかたチャイルド/1984年)

お父さんと一緒にいもほりに出かけ、みんなで力を合わせてお芋掘り。家族の絆が感じられる絵本です。

怖がりな子供への対応は、結果ではなくプロセスへの賞賛が効くとされています。Mueller & Dweck(1998)の研究では、才能を褒めるより努力やプロセスを褒める方が、その後の挑戦心が育つことが示されています。

「続けること」に価値があるということを伝えてくれる絵本です。

わたし(谷川俊太郎 作・長新太 絵/副音館書店/1981年)

わたしはわたし」。様々な立場や関係から見た「自分」の呼び名が変わっていく中で、それでも変わらない「わたし」という存在を詩的に描く絵本です。

怖がりで挑戦できない子どもの多くは、失敗して「自分はダメだ」と思われることへの恐怖を抱えているのではないでしょうか。その根底にあるのは、結果によって自分の価値が変わるという感覚だと思います。

この絵本は、お母さんから見ても、お友達から見ても、誰から見てもわたしはわたしという、「関係に依存しない存在の確かさ」を伝えてくれます。

ぐりとぐら

森で見つけた大きな卵をカステラにしよう、フライパンで焼く匂いに連れられて、動物たちが大集合。読んでいてとっても楽しい世界を描いた大人気シリーズのスタートの絵本です。

抑制型気質の子どもは、新しいことに挑戦したら良いことがあったという成功体験の蓄積が効いてくるようです。

ぐりとぐらの世界は安全で、挑戦が報われ、仲間と喜びを分かち合う。新しいことへの期待感を育てるのにぴったりな絵本です。

よくある疑問

Q.「勇気を出して」と言ってはいけない?

A. 言ってはいけないわけでないと思いますが、言葉だけでは行動は変わりません。

「失敗しても大丈夫」「戻ってきていい場所がある」という安全基地の確信が先なのではないでしょうか。背中を押すより先に、親子の安全基地を育てることを優先してみるのが良さそうです。

Q. 人見知りは成長したら治る?

A. 抑制型気質は成長で「なくなる」ものではなく、「うまく扱えるようになる」ものとされているようです。成人した抑制型の人が「慎重で深く考える」「変化に注意深い」という形で強みとして発揮することは多くあるかと思います。

背中を押す前に、「大丈夫、ここにいるよ」と伝えることが、抑制型気質の子どもへの最初の一歩なんですね。

参考文献

  • Kagan, J. (1994). Galen’s Prophecy: Temperament in Human Nature. Basic Books.
  • Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss, Vol. 1: Attachment. Basic Books.
  • Ainsworth, M. D. S., Blehar, M. C., Waters, E., & Wall, S. (1978). Patterns of Attachment. Erlbaum.
  • Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33-52.
  • Bandura, A. (1977). Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84(2), 191-215.
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