また叩いた、また噛んだ。
毎日繰り返されちゃうと、正直しんどくなっちゃいます。でもこれは、子どもが悪いじゃないんです。
Tremblay et al.(2004)の縦断研究によれば、身体的攻撃行動のピークは生後24〜42ヶ月、つまり2歳から3歳半にかけてで、その後は自然に減少していくとされています。
泣いたり、笑ったり、言葉を持つ前から感情はある。でも、表現手段がないから身体が先に動いちゃう。
叱っても止められない行動だとしたら、絵本を通じて、絵本のキャラクターが同じ場面でどうしているのかを見せることで、子どもの選択肢を増やしてあげる。そんな使い方ができそうな絵本を紹介します。
なぜ叩く・噛む・投げる?
発達科学の文脈では、大きく3つの要因が絡んでいるとされています。
語彙の不足
「悔しい」「悲しい」「もっと見てほしい」。こういった感情を言葉にしようと思ったら、まずは、その言葉を知らなければなりません。
まだまだ語彙数が少ない子どもでは、感情の細かいニュアンスをカバーできません。感情に名前がつかないので、身体が反応しちゃうんですね。
前頭前野の未成熟
脳の中で衝動の抑制を担っている前頭前野の成熟は長い時間がかかるとされています。幼児期には、「やりたい気持ち」にブレーキをかける回路がまだ弱いです。
子どもの意志の問題ではなく、構造の問題があるようです。
注意や愛情の要求
「とにかく振り向かせたい」という動機で行動が出ることがあります。叱られても親が振り向く。そんな体験が、気付かないうちに行動を強化してしまうケースは珍しくないとされています。
絵本のアプローチ
子どもの選択肢を増やしてあげる絵本の選び方としては、2つのアプローチがあると思います。
感情を言語化する体験
キャラクターの感情の状態に名前をつける場面が多い絵本です。まさに、子どもの引き出しを増やしてあげられます。
他者視点で「やったらどうなるか」を見る
行動の結果を物語で体験する絵本です。物語を通じて、少し引いたところから見ることができると、子ども自身が気づく手助けをしてあげられます。
わにわにのおふろ(小風さち 作・山口マオ 絵/福音館書店/2004年)
わにわにが自分のしたいことを、のびのびと楽しそうにやっている。ゴツゴツした見た目のまま、迫力満点の姿で描かれたお風呂に入るワニに子ども達が熱狂した絵本です。
迫力のある見た目なのに穏やかにふるまう、そんなギャップが独特の安心感を与えるこの本は、いわば予防的な使い方として、ワニという噛む動物を主人公にしながら、そんな動物もお風呂という日常の文脈で穏やかに描かれる、子どもに対して、噛む存在だって穏やかにいられるんだ、という体験を無意識のうちに積ませてあげられます。
きっと何度も読むうちに「わにわに好き」という感情ができると思います。その後で、日常で噛んでしまう場面があったとき、「わにわにはどうしてたっけ?」と思い出せると良いのではないでしょうか。
にじいろのさかな(マーカス・フィスター 作/谷川俊太郎 訳/講談社/1995年)
きらきら輝くうろこを持つ魚が主人公。誰よりも美しいのに、うろこを独り占めするせいで友達ができません。タコに相談し、うろこを分けることで初めて仲間ができます。
物を投げる・奪うという行動の根底には、「自分のものを守りたい」「もっと欲しい」という気持ちがあることが多いです。この絵本は、独り占めしちゃうとどうなるかを物語で見せてくれます。
発達心理学では、3歳ごろから「相手の視点に立つ」力(Theory of Mind)が芽生え始めるとされています。にじいろの魚が感じた孤独を「なんか知っている」と感じられるでしょう。
「にじのさかな、どうして友達がいなくなったんだと思う?」と途中で聞いてみましょう。答えを導くのではなく、一緒に考えるプロセスが目的です。「貸せない場面」があった後に読むと、自分の体験と結びついて子どもが気づきやすいでしょう。
おこりたくなったらやってみて?(オーレリー・シアン・ショウ・シーヌ 作/垣内磯子 訳/主婦の友社/2019年)
ユニコーンの子どもガストンが怒りの感情を呼吸法のステップで落ち着かせる方法を教えてくれます。
ポイントなのは、怒りを抑えろではなく、「怒りを感じていい、体を使って落ち着かせよう」というアプローチです。感情を抑圧することと、感情を調整することは別ということを教えてくれます。
Gross(1998)の感情調整プロセスモデルでは、「応答焦点型調整」、感情が高まった後に身体への働きかけでダウンレギュレートする方法が示されています。この絵本は、幼児向けにこの方法を実践することができます。
「鼻からすって〜、口から出して〜」。実際に一緒にやってみるのが一番効きます。読むというより練習に近い使い方を想定して、怒り爆発になる前に、機嫌の良いときに繰り返し読んでおくのがおすすめです。
かいじゅうたちのいるところ(モーリス・センダック/じんぐうてるお 訳/冨山房/1975年)
「このかいじゅう!」と怒った母親に夕食抜きで部屋に閉じ込められたマックスが、想像の世界でかいじゅうたちの王様になり、思い切り暴れ、ごはんのにおいが恋しくなって家に戻るというお話です。
主人公が「悪い子」として描かれているわけではない。マックスは怒り、大暴れし、でも最後は帰りたくなる。そんな感情の流れが衝動的に手が出てしまう子どもの内的な体験と重なります。
一緒に読んで、最後のページ「まだ あたたかかった」でホッとする体験を共有することができます。叩いてしまった夜の読み聞かせにもおすすめです。
ないた(中川ひろたか 作・長新太 絵/金の星社/2004年)
「いちにち いっかい ぼくは なく」で始まるこの絵本は、泣くという行為をテーマに据えながら、その内側にある感情の多様性を描いています。
ころんで泣く、けんかして泣く、うれしくて泣く。泣く理由がこれほど違うことを、子どもに静かに教えてくれます。
叩く・噛むといった行動を「ひどい行動」として叱り続けてしまうと、子どもは感情そのものを出してはいけないと感じてしまうでしょう。この絵本は、感情を出すこと自体は当たり前なんだ、ということを教えてくれます。
叩く・噛むといった行動が続くのをみるとなんだか親もしんどくなりますが、そのしんどさを子どももどこかで感じ取って、さらに感情を出しにくくなるループが起きてしまうこともあります。
親子で読んで、感情を出して良いんだと、再確認できる絵本です。
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参考文献
- Tremblay, R.E., Nagin, D.S., Séguin, J.R., Zoccolillo, M., Zelazo, P.D., Boivin, M., Pérusse, D., & Japel, C. (2004). Physical aggression during early childhood: Trajectories and predictors. Pediatrics, 114(1), e43–e50.
- Gross, J.J. (1998). Antecedent- and response-focused emotion regulation: Divergent consequences for experience, expression, and physiology. Journal of Personality and Social Psychology, 74(1), 224–237.
- Bowlby, J. (1969). Attachment and Loss: Vol. 1. Attachment. New York: Basic Books.

