ちょっとした音でびっくりしちゃう、友達が叱られているだけで自分も泣いてしまう、新しい場所に行くと固まってしまう、賑やかな場所に行くとなんだか疲れちゃってる?ちょっとだけ敏感な子なのかな??
発達科学では、HSC (Highly Sensitive Child)という概念が提唱されています。この記事では、そんな子供の気質に着目してみました。
HSC (Highly Sensitive Child)とは?深く感じる子の脳
HSC(Highly Sensitive Child)は、アメリカの心理学者エレイン・N・アーロン博士が提唱した高感受性の概念(The Highly Sensitive Person、1996年)を2002年に子ども向け(The Highly Sensitive Child)に体系化した概念です。
HSCは、医学的な診断名ではなく、子どもの持つ先天的な気質とされています。HSCは、子どもの15〜20%、つまり5人に1人が持つとされています。
HSCの子どもは、「刺激に対する感受性が高い」という特性を持っているとされています。発達科学の研究では、ミラーニューロン(他者の行動・感情を自分のことのように感じる神経細胞)が関わっている可能性が示唆されていますが、HSCと神経学的特製の関係については、まだまだ研究が進行中のようです。あくまでも、どんな風に感じるかという脳の処理スタイルの違いなんですね。
アーロン博士はHSCの特性を「DOES」という4つの頭文字でまとめています。
D : Depth of Processing(深く処理する)
物事をじっくり考え、表面だけでなく深い部分まで感じ取る。決断に時間がかかるのはこのためです。優柔不断ではなく、情報を丁寧に処理しているんですね。
O : Overstimulation(過剰刺激を受けやすい)
音・光・においなど、周囲の刺激を強く受け取るため疲れやすい、賑やかな場所が苦手なことが多いです。
E:Emotional Reactivity & Empathy(感情反応の強さと共感力)
喜怒哀楽が深く、他者の感情にも強く共鳴する。友達が叱られると自分も泣いてしまうのはこのためですね。
S:Sensitivity to Subtleties(細部への気づき)
他の子が見過ごすような細かい変化(部屋の模様替え、大人の表情の変化など)にすぐ気づくようです。
敏感な子に絵本を読んであげたい理由
HSCかどうかに関わらず、深く色々なことを感じているんだな、そんな子どもに絵本が役立つポイントは以下のようなことが挙げられそうです。
刺激量を自分でコントロールできる
テレビや動画と違い、絵本は自分のペースで読み進められます。過剰な刺激を避けつつ、「止められる・繰り返せる・飛ばせる」という自律性が安心感をもたらすのではないでしょうか。
静かな環境で一対一の体験ができる
集団の場では集中できなくても、親と二人きりの読み聞かせの環境、「一対一の深い関わり」を作り出すことで、子どもが安心して集中できる場面を作り出すのに最適ですね。
感情や体験を安全に処理できる
現実世界で起こる怖い体験や悲しい体験を絵本というフィクションの中で先体験しておくことができると思います。落ち着いた環境で子どもが感情の揺れと向き合う機会を作ってあげることで、実際の場面でも向き合っていけるよう後押しができるのではないでしょうか。
おすすめの絵本
一言に感受性が豊かだ、HSCなのかな?4つの特性(DOES)のどれだろう?と考えても、子どもの気質は本当に一人一人異なると思います。あまり深く悩みすぎてしまうのではなく、深く子どもに届きそうだな、静かにそのままでいいんだよと言ってくれている、そんな絵本をご紹介します。
わたしのわごむはわたさない(ヨシタケシンスケ 作/PHP研究所/2019年)
ゴミ箱の横に落ちていたわごむをもらった女の子が、「これはわたしだけのもの」と決めて大喜びするのが印象的なお話です。
お兄ちゃんのおさがりでもなく、みんなで使うものでもなく、ちょっとかしてもらうものでもない。本当に自分だけのものを手に入れた喜びを全力で描いた絵本です。
共感力が高いがゆえに、自分の気持ちを後回しにしちゃいがちなお子さんに、「自分だけのもの」「自分の気持ち」を主張してもいいんだよ、このシンプルなメッセージを伝えている絵本です。
お子さんが「わかる!」と笑ってくれたら、「○○ちゃんにも、絶対わたさないものはあるかな?」と聞いてあげてみてください。あってもなくても、自分だけのものを意識するきっかけになると思います。
すてきなひとりぼっち(なかがわわちひろ 作/のら書店/2021年)
絵を描くのが好きで、クラスでひとりぼっちになりがちな男の子一平くんが、ひとりでいる時間の豊さを発見していく物語です。じつは、だれでもみんな、ひとりぼっちです。そして、ひとりぼっちのときに、宝物をたくさんみつけます、というとっても深いメッセージが響く作品です。
みんなと同じようにできない、なんで自分だけこんなに疲れるんだろう、というネガティブな感情を持つのではなく、ひとりだからこそ気づける豊かさを教えてくれる、内向的な子どもが前向きになれるそんな一冊です。
読み終えたら「○○ちゃんは、ひとりでいる時間に何してる?」と聞いてみてください。答えがなんであれ、それって素敵だね、と受け止めてあげるだけでも十分ではないでしょうか。
ないた(中川ひろたか 作・長新太 絵/金の星社/2004年)
「男の子は泣いちゃダメ」「もう大きいんだから」、ついつい言ってしまいそうな言葉です。泣くことは恥ずかしくない、様々な場面で「泣いていいんだよ」というメッセージを伝える絵本です。
発達科学の観点では、感情の揺れが大きいことから「泣くことは恥ずかしいこと」だと思い込んでしまう、感情を出すことを抑圧することが習慣化すると、長期的に自己肯定感の低下につながることが指摘されています。
泣くことは、自分の感受性に折り合いをつける正常な行為なんだと肯定することを教えてくれる一冊です。
泣きたいときは泣いていいんだよ」と読み終えた後に一言伝えてあげましょう。親自身が「悲しいときは泣くんだよ」と話してあげることで、子どもが感情を抑圧しないモデルを見せることができます。
せかいいちうつくしいぼくの村(小林豊 作/ポプラ社/2015年)
アフガニスタンの小さな村の美しさを描いた絵本。戦争によって失われていく日常の美しさを、子どもの目線で静かに伝える作品です。
美しいものへの感受性・他者の痛みへの共感が強い子どもにとって、この絵本は単なる「きれいな話」ではなく、世界の複雑さと美しさを同時に体験させてくれます。物語の奥にある感情や文脈を深く感じる子どもに、あなたの感じ方はおかしくないよ、と伝えることができる一冊です。
※この本は、読後に重さが残ります。頭からお話が離れなくて引きずる子もいると思います。すぐに感想を求めてしまうと、頭の中を処理できないうちに言語化を強いることになります。読んだ後は、しばらく余白を置いてあげるのが、この作品には良いかもしれません。
おこだでませんように(くすのきしげのり 作・石井聖岳 絵/小学館/2008年)
いつも怒られてばかりの男の子が、七夕の短冊に書いた願い事は「おこだでませんように」。自分の内側を覚えたての字で一生懸命書いた、そんな姿をを描いた絵本です。読み聞かせている大人もうるっときてしまいます。
他人の感情に敏感な子どもは、叱られることへのダメージも大きくなりやすく、「怒られた=自分はダメな子」と深く受け取ってしまいがちです。子どもなりの一生懸命さを子どもの視点から描いた絵本を通じて、見落としがちなこの子なりの理由があるんだなと、気づくきっかけになるかもしれません。
読み聞かせで気をつけたいこと
刺激の少ない環境で読む
落ち着いた静かな空間を作ってから始めましょう。刺激が少ない子どもが絵本の世界に深く入り込めある環境を用意してあげましょう。
感想を急がない
色々な気持ちを深く処理していると、すぐには感想が出てこないかもしれません。もしかして、次の日になって昨日の絵本についてお話ししてくれるかもしれません。
怖い・悲しい場面で無理に読み続けない
深く感情移入した結果、ちょっとだけ辛くなっちゃうこともあるかもしれません。もう読まないで!ちょっとお休みしたい、そんな子どもからのサインを尊重してあげられると良いですね。
よくある疑問
HSCと発達障害は違う?
HSCは医学的な診断名ではなく、生まれつきの気質とされており、発達障害とは異なる概念とされています。気になる方は、かかりつけの小児科や発達相談窓口など、専門家にご相談ください。
もっと強くなりなさい、言っても大丈夫?
敏感さは脳の神経特性であり、意志や努力で変えることはできません。子どもに「今の自分はダメだ」敏感さそのものを変えようと考えてしまうような声がけではなく、「敏感であってもうまくやっていける方法」を一緒に見つけていくアプローチはどうでしょうか。
敏感な子に怖い絵本や悲しい絵本は避けた方がいい?
子どもの反応を見ながら慎重に選ぶことが大切です。怖い体験をフィクションで先体験することは有益ですが、処理できる以上の刺激は逆効果だと思います。
敏感な子どもは、周囲より多くのことを感じ取っています。それは時に本人を疲れさせてしまう。でも、他者の痛みに気づく力でもあるし、美しいものを美しいと感じる力でもある。絵本は、そんな感受性がうまく使われる場所になれると思います。子どもが深く感じ取っているとき、急がず、隣にいてあげましょう。
参考文献
Aron, E.N. (1996) The Highly Sensitive Person. Broadway Books.
Aron, E.N. (2002) The Highly Sensitive Child. Broadway Books.
長沼睦雄(2018)『子どもの敏感さに困ったら読む本』(誠文堂新光社)
